Tamura (2026)

日本語を第一言語とする英語学習者が,英語の単数・複数形を文処理中に自動的に概念的意味へとマッピングできているかどうかを調べた研究です。

先行研究(Jiang et al., 2017)では,文中に単数形名詞が出てきたとき,それが複数の物が写っている写真とペアになると,母語話者の反応時間が遅くなることが示されていました。これは,文処理中に単数形の意味(=1つ)が自動的に活性化され,写真の内容との概念的な不一致が干渉を生んでいることを意味します。ただし,Jiang et al. の研究では「単数名詞×複数の写真」という一方向のミスマッチしか検討されていませんでした。では逆方向,つまり「複数形名詞×1つの物の写真」ではどうなのか,については誰も調べていなかったのです。

本研究では,文と写真のマッチング課題を用いて,この両方向のミスマッチを同時に検討しました。実験の仕掛けはこうです。まず参加者に写真(物が1つか3つ写っているもの)を見せ,続いて写真の内容(物の位置や色)を説明した英文を提示します。参加者は「文が写真を正しく説明しているか」をできるだけ速く判断します。肝心なのは,ターゲット試行では単数・複数のミスマッチが仕込まれていること,そして参加者には「数のズレは気にしないでいい」と明示的に教示している点です。それでも反応時間に遅れが生じるならば,数の処理は意識的な注意とは独立して自動的に行われている,ということになります。L1英語話者32名と日本人英語学習者96名を対象に実施し,反応時間データを逆ガウス分布の一般化線形混合モデルで分析しました。

結果として,L1英語話者は両方向のミスマッチで反応時間の遅れを示しました。単数名詞が複数の写真とペアになっても,複数形名詞が1つの物の写真とペアになっても,どちらも干渉が起きていたわけです。一方,日本人英語学習者は,単数名詞が複数写真とペアになった条件では反応時間の遅れが見られたものの,複数形名詞が1つの写真とペアになった条件では有意な遅れが見られませんでした。

この非対称性の説明として,本研究では意味的有標性(semantic markedness)の概念を援用しています。単数形の意味(=正確に1つ)は精確で特定性が高いのに対し,複数形の意味(=1より多い)は本来ぼんやりしていて,特定の数を指すわけではありません(Sauerland et al., 2005; Patson et al., 2014)。学習者にとっては,この「単数のクリアさ」があるからこそ自動的な概念マッピングが成立するが,「複数の意味のぼんやりさ」に加えて,日本語には義務的な複数形形態素が存在しないという母語の影響(Morphological Congruency Hypothesis; Jiang et al., 2011)も重なり,複数形と複数概念のリンクが自動化されるに至っていない,という解釈です。

この結果がとくに重要なのは,これまでの研究の解釈に修正を迫る点です。Tamura (2025)でも論じたように,先行研究で見られてきた学習者の複数形態素への「非敏感性」は,複数形を処理できていないとか意味が載っていないということを必ずしも意味しません。本研究の文脈では,単数形から複数形への方向ではきちんと干渉が生じていることから,問題は形式と意味のマッピングの有無ではなく,その自動化の度合いや方向性によって異なる,という可能性を示唆しています。両方向のミスマッチを一つの実験で検討したのは本研究が初めてであり,この非対称性を明らかにした点に独自の意義があると考えています。

Tamura, Y. (2026). Singular–plural asymmetry in L2 English number processing: A sentence-picture matching study of Japanese learners of English. International Journal of Bilingualism. https://doi.org/10.1177/13670069261422017

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Tamura (2025)

日本語を第一言語とする英語学習者を対象に,英語の数表示の理解を調べた研究です。一番の主張は,複数形形態素の習得を,「意味と形式のマッピングがなされているのか」という観点に絞って検討してみないと,習得の難しさを明らかにすることはできないのではないか,ということです。実験のロジック自体はTamura (2023)と同じで(実は順番的にはこっちの実験のほうが先にやってましたけど色々な事情でこちらの研究のほうがあとに出版されることになりました),自己ペース読み課題中に語数の判断を求める課題です。こちらの実験ではTamura (2023)といくつか違いがあります。1つ目は,1語提示条件の名詞に(a)普通名詞の複数形(e.g., cats),(b)集合名詞の単数形(e.g., family),(c)複数形優位名詞(e.g., residents)の3つの条件を入れてあることです。2つ目は,2語提示の単数名詞句で逆のことが起こるかどうかという条件もあることです。つまり,the cat, a cat, one catのようなものを2語と判断するのが,the catsという複数名詞句を2語と判断するよりも遅れるのか,ということを調べました。様々な先行研究では数の有標性という概念を使い,単数が複数には干渉しにくいということが言われているので,そのことを調べたのと,aやoneのように単数を明示する要素が含まれている場合に干渉が起こるかということを調べました。結果は,前述の(a)から(c)のすべての複数形の1語を判断するのは単数形の1語を判断するよりも統計的に有意に遅れが見られました。単数形を2語と判断する条件では,one catのようにoneがついている場合には遅れが見られました。複数形名詞の語数判断の遅れは,文処理中に名詞句に複数の意味が載っている(形式と意味のマッピングがされている)ことを示唆しています。つまり,先行研究で数の一致処理に複数形形態素が絡んでいるような場合に見られる一致の誤りへの非敏感性(insensitivity)は複数形形態素の処理が出来ていないとか,そこに意味が載っていないということではなく,一致という処理に困難を抱えている可能性が高いということです。単数形名詞の場合には,oneがついている場合には遅れが見られた(ちなみに母語話者はこれ遅れません)ので,学習者に特有な語彙の意味に頼った処理の可能性があるということで議論しています。

Tamura, Y. (2025). Is cats one word or two? L2 Learners’ processing of number marking in English from the viewpoints of form–meaning mapping. Second Language Research, 41(1), 21–46.https://doi.org/10.1177/02676583231188933 [Author Manuscript]

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Tamura (2023)

有生性階層(Animacy Hierarhcy)に基づき,言語によって名詞の複数形を許容する程度が異なると言われています。日本語は有生と無生の名詞を区別しており,後者は英語と異なり,複数形の標識が付与されにくくなっています(例:?本たち)。このような違いは,日本語を第一言語とする英語学習者にとって複数形形態素の習得を困難にする原因となる可能性があるのではないかという仮説を立てました。本研究では,文処理中において有生性が英語の複数形形態素の処理に与える影響について検討しました。実験では,34名の日本語を第一言語とする大学生英語学習者を対象に,移動窓方式の自己ペース読み課題を実施し,読解中の任意の区域で単語数が1個か2個かの判断を求めました。この課題のロジックは,複数形の名詞を1語と判断するのに要する時間は,単数形の名詞を1語と判断するよりも複数という名詞に付与された情報の干渉によって長くなるであろうという予測に基づいています。もし有生性が重要であれば,日本語では複数形になりにくい無生物名詞に対してはそのような干渉を受けないのではないかと予測しました。しかしながら,有生名詞,無生名詞のいずれにおいても学習者は干渉効果を見せ,複数形の際に反応時間が長くなることがわかりました。したがって,有生性階層に基づく予測が支持されませんでした。論文中では,なぜこのような結果になったのかについても議論しています。

Tamura, Y. (2023). Investigation of the relationship between animacy and L2 learners’ acquisition of the English plural morpheme. Journal of Psycholinguistic Research, 52, 675–690. https://doi.org/10.1007/s10936-022-09915-2 [Read Online]

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